1番印象に残っている試合

和田拓

キヤノンイーグルス / ジャパンラグビートップリーグ

1番印象に残っている試合といえば2012年のトップリーグ初戦、NTTドコモレッドハリケーンズ戦だ。これまでも重圧のかかる多くの試合を重ねてきた。数多くある試合の中でも、あの時の試合前の緊張感は忘れられない。

日本ラグビー界で最高峰のラグビーリーグが「トップリーグ」だ。当時のチーム数は14チーム。その全てのチームが凌ぎを削り、日本一を争っていた。
その14チームの中で私が所属していたのは「キヤノンイーグルス」だ。このチームは本格強化5年目で前年度に初昇格を決めた新しいチームだった。私自身イーグルスに入り2年目の23歳。つまり、1年目はトップリーグの2部リーグにあたるカテゴリーにいたわけだ。
そんな中、初昇格チームの初公式試合を私はキャプテンとして迎えることになった。このチームを強くしたいとは入部当初から思っていた。ただ1年目のシーズンはずっと怪我に悩まされた。本気で社会人でラグビーを続けたことを後悔しかけた思いさえも経験した。そんな紆余曲折を経てのキャプテン就任は「やってやる」の想いと共に「自分でいいのか」という複雑さもあった。
社会人チームに最終学年はない。そして日本代表や世界一のオールブラックスなどの様々な経験を持った選手たちがいる。その人たちの前で話すとはどういうことか。全部の練習で緊張したのを覚えている。

ただ、当時常に自分に言い聞かせていたことは
「初昇格を言い訳にせず、必ず今のチームで結果を出したい」ということだった。
初昇格のチームがトップリーグに残留できる確率は高くない。初めての経験は想像以上にタフさが求められるのだ。事実、世間はイーグルスを高く評価していなかっただろう。
だが、「新しいチームだから」とか「どうせ最初はうまくいかないだろう」と思われるのだけは嫌だった。「どうせ」という言葉が嫌いだったから。
だからこそメンタルのスタンダードを高く持ち続けたい。それに新しいチームだからできる事だってある。そう思っていた。

しかし、目指すものと現実の乖離とでもいうのだろうか、練習試合も思うような結果は得られなかった。そして何より、そこに私の姿はなかった。前年からの怪我で練習も試合もできない立場にいたのだ。

そして、いよいよ開幕2週間前。五郎丸歩選手らを擁し、のちにトップリーグを優勝することになるヤマハ発動機ジュビロと練習試合をした。
0対72で敗戦。ウォーターボーイをしながら、本当に泣きそうになった。
「2週間後…」「やばい…」そんな言葉が頭を錯綜した。その日の夜、磐田市のホテルでカラムブルースや他のメンバーと、ビールを飲みながらこれから挑むトップリーグという壁について話したのを覚えている。

私自身は次の週の練習試合で復帰。つまり復帰1週間で迎えた開幕戦だった。

今でも記憶にあるが、その開幕戦の週の練習は酷かった。簡単な基本プレーのミス、普段ではありえない連携のミス。ヤマハ戦で受けたショックと開幕前のちょっとした高揚感でいつもと違う雰囲気だったのだろう。
試合会場である大阪へ向かう新幹線でも全く不安は解消されなかった。
「恥ずかしい試合をしてはいけない。」
普段はじっくり眺める富士山を見ている余裕さえもなかった。

いよいよ試合当日の朝になった。キックオフは午後7時。ヘッドコーチのアンディーフレンドに「大丈夫、午前中は特にリラックスね。」という言葉をかけてもらい、落ち着けたことを覚えている。
しかし、午後に入ってからは重圧に近い緊張感とトップリーグの舞台でプレーできるという事実、そして復帰できた喜びで、何をしたかを覚えていない。聞いた話によると、試合会場についた時に声をかけてくれたチームの佐藤一弥ゼネラルマネージャーをスルーしていたらしい。

それでも試合前のウォーミングアップが始まると、チームの集中力が高いのを感じた。なんとなく選手それぞれが自分自身に対して集中している感じ。しかし、自己中心的ではなくチームとしては乱れていない。
よく「ゾーン」と呼ばれる集中力が研ぎ澄まされている状態は、大概心は静かで思考はシンプルになる。「やるしかない」「早く試合がしたい」そんな気分だったのだ。
高揚感がほとばしるロッカーでの試合前の円陣では、「一回深呼吸しよう」とチームメートに声をかけた。
グラウンドへ入場したあの瞬間の鳥肌は決して忘れないだろう。

その後は無我夢中だった。ウォーミングアップ中には漠然と良い集中と感じていたものが、一つ一つプレーを重ねるごとに確信に変わっていく感覚だった。ボールキャリアが少しでも前進しようとする勢いや、素早いプレー選択の決断と仲間のプレーに対する反応など、春から積み上げてきたものがそこでは見事に発揮された。
結果は38対14で勝利。チームをこれほどまでに頼もしく思えた80分は今までなかった。
試合後、永友洋司監督との握手は、言葉はなくとも互いがホッとしたのを感じたものだった。
この日、私はラグビーがもっと好きになった。

チームは生き物だ。
日によって選手の体調面や心理面は変化する。そして、多くの選手がグラウンドに立つラグビーにおいては、それぞれの状態が違うため同じプレーの練習をしていても同じ結果にならなかったりする。なぜあの日イーグルスは実力を発揮できたのだろうか。今、振り返っても不思議に思ったりするくらいだ。
でも、だからこそラグビーはおもしろい。その瞬間のそのプレーは二度と起こらないからだ。チームとして一つのプレーを選択するまでには、実に様々な要素が含まれている。

だからこの勝利で何が一番嬉しかったかと言うと、チームとして結束できたことだった。そして、それまで取り組んできたことの正しさをチームとして証明できたことも。
正直、春からなかなか結果が出ずに疑心暗鬼になっていた選手もいたはずだ。それでも自分がメンバーになろうがなるまいが、どの選手もハードワークし続けてくれた。スタッフもどんな時だって根気強くチームをサポートしてくれた。もちろん会社やファンの応援も力強くチームを後押ししてくれた。
この試合での勝利は、間違いなくこのような多くの人の努力と結束の成果だったと思う。

これが私の、多くの人が覚えていないかもしれない1番印象に残る試合である。
この勝利を皮切りにトップリーグでのキヤノンイーグルスの歴史がスタートしたという意味では、意義のある試合だっただろうか。
私はこの日、ハードワークし続けることや仲間と協力し続けることの大切さを改めて感じた。そして、自分の置かれている状況を正面から受け止めることで、その先には想像していなかった感動が待っていた。
緊張、重圧、勇躍。いろんなものを受け止める事ができたから、勝利できたのかもしれない。

現在、私はすでに引退して会社のパソコンに向かいキーボードを叩く毎日だ。チームの運営に携わり、いかにいろいろな支えの中、ストレスなくラグビーをさせてもらえていたかを実感している。
キヤノンイーグルスの挑戦はまだまだ続く。
だからこれからは、経験を活かし、チームや選手の価値を少しでも上げられるようサポートしていきたい。

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